21/02/2026
絵馬が、風に揺れている。
その揺れは、今日の風だけのものではない。
もっと昔から、ここを通り抜けてきた祈りの気配。
「ファンの思いあふれる長崎・淵神社、V長崎とヴェルカの躍進祈願する絵馬多数…神主「絆を感じる」」
https://news.yahoo.co.jp/articles/ef0312587d876a110cc1f5851c849cd7ee11a9d5
書かれているのは、
合格でも、商売繁盛でもない。
「J1残留」
「CS優勝」
そして、いちばん多い言葉——
「無事でありますように」。
長崎市淵町の 淵神社。
この町は、ずっと「無事」を祈ってきた場所。
隠れキリシタンの時代。
信仰を名乗ることさえ許されなかった日々。
戦(いくさ)や弾圧の時代のうねりの中で、
人々が願ったのは、ただ一つ——
今日を、静かに生き延びること。
その祈りを象徴する存在のひとりが、
桑姫。
名を奪われ、歴史の陰に置かれながらも、
それでも「信じること」と「生き抜くこと」を、
決して手放さなかった人。
淵町は、声高に勝利を叫ぶ土地ではない。
代わりに、
「戻ってこられますように」
「誰も欠けませんように」
そう願い続けてきた。
だから今、
サッカーJ1の舞台に立つ V・ファーレン長崎 も、
B1の頂を走る 長崎ヴェルカ も、
この場所で祈られている。
元旦から5日間、
長崎スタジアムシティ のピッチに、
期間限定で設けられた「スタジアムシティ神社」。
歓声の中心で、人々は手を合わせた。
勝利の前に、まず無事を。
結果の前に、人を。
「全員が、最後まで走り切れますように」
「ケガなく、戻ってきてほしい」
その言葉に触れたとき、
多くの人が、同じ一節を思い出す。
クリス・ハートが歌う
いのちの理由。
クリス・ハート - 「いのちの理由」
https://youtu.be/5ibjuYT5sRc?si=J1caKY0fXn2l2miC
——生きててくれて、ありがとう。
それは、勝利を祝う言葉ではない。
けれど、ここに結ばれた絵馬の言葉と、
確かに同じ場所を見つめている。
闘病中の 名倉巧 選手を思う絵馬もある。
それは応援というより、
この町が何度も繰り返してきた
生きていてほしい、という祈り。
奉納された約400枚の絵馬。
神主は言う。
「選手との絆を感じます」
それは、いま始まった絆ではない。
この地が、何百年もかけて育ててきた祈りの形。
神主は、静かに指さす。
「この先には、センターサークルがあり、淵神社があり、
そして 稲佐山 がある」
ロープウェイは、延びていない。
けれど祈りは、届いている。
桑姫の時代から、
隠れキリシタンの沈黙の中から、
戦争の影を越えて、
そして今、スタジアムの光の中へ。
無事であることを祈る。
それは、いちばん静かで、
いちばん強い願い。
長崎・淵町は今日も、
勝利のその先にある「平穏」を、
絵馬に結び、無事を願って、風に託している。
長崎手彩色絵葉書
ピースバイピースナガサキ 長崎市「平和の文化」事業認定 長崎手彩色絵葉書