03/12/2025
《ソースの重要性―――生成AIの台頭》
https://www.dailyshincho.jp/article/2025/11140600/?all=1
共同通信っていうのは、自分も学生時代にアルバイトで随分お世話になった会社で、自ら配信する記事の信頼性に関して、一般メディアよりその重要性を理解している会社だと思う。
その共同通信が、ウミガメのフェイク画像を事実として配信してしまったうえに、その訂正に時間を要したという流れ。
生成AIを用いた動画や画像は、現在において既に「見抜くのが事実上困難」な状況に来ているというところが、時代としてちょっと気色悪い。
最近、クマ関係の生成AIによるフェイク動画が、じつは幾つか確認されている。おばあちゃんが農作物を畑でヒグマに手渡しで与えている動画や、女子高生らが路上で仔熊を抱っこして、可愛い可愛いとはしゃいでいる動画など。また逆に、クマを恐怖の猛獣に見せるためのフェイクやヤラセの動画もあるかも知れない。つい一週間ほど前にも、宮城県・女川町の公式Xのページで町内のあるクマ出没情報がニセであったことを訂正・お詫びする投稿がアップされたばかりだ。
https://x.com/TownOnagawa/status/1993597632292524317?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1993597632292524317%7Ctwgr%5E59fff658b7d5f46ee47b5d9e84b91042b82a9975%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.ben54.jp%2Fnews%2F2946%2Fembed
もちろん、クマの専門家の一部はこういうクマフェイクの風潮に大きな懸念を持つが、一般の方は今のところ意外と無頓着なようで、注意を要する。技術が進化したぶんだけ、ヒト側もさらに進化しなくてはいけないわけだ。
一方、現代の特長として、1億総評論家のところがあって、それが必ずしも悪いとは言えないが、どんな情報や理解からその評論を自由気ままにおこなっているかには、大きな問題があるケースも散見される。
ぶっちゃけた話、「その論の元となっているソースは確かなのか?」という基本の基の話。彼らのクマ問題評論の元となっているのが、軽薄なメディアの作為的で歪んだニュースだったり、SNS上のデマか風説だったり、生成AIによる半ば悪意・作為あるイタズラだったりで、それらが世論や政策をつくる国はとても危うい。
自分も何かを把握しようとするときネット情報は利用するが、その信憑性や事実度で一つ一つより分けるのに、もの凄く時間をかけている。が、それでもより分けでミスをすることがある。生成AIの出現と進化によって、その「より分け」作業自体は困難化することが予測できる。
不特定多数の1億総評論家集団が、今度は原動力となってミスリードの連鎖あるいはスパイラルを引き起こす流れとなり、その流れはなかなか止まらないのが普通だろう。逆に真の専門家が、いかに毅然と恐れることなく積極的に発言していくかが、とても大事なところだと最近特に痛感する。
そのような事情があって、今日は実例を用いて少しだけ細かいことまで踏み込んで書いてみようと思う。
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さて。
もう一つ、そのまま鵜呑みにできないことがよくある情報に、一部の猟友会支部・ハンターから出る情報がある。クマ経験が豊富でまっとうな猟友会なり組織・団体なりからは、その類いの怪しげな情報は出て来ないが、その情報の信頼性に関して、一般人としては生成AIのフェイク動画同様、見分けがとても難しい。
最近の例で気になったのは、苫前で箱罠をひっくり返したという「こんなにデカいのは見たことがない」「400㎏超えの巨大ヒグマ」の例。この動画はあちこちにばらまかれているので「苫前 400㎏ ヒグマ」とかで検索するといくらでもヒットするだろう。
「箱罠をひっくり返したクマ」の動画をちょっとクマを見慣れた人間が見ると、「巨大ヒグマ」には相当な違和感を禁じ得ないが、一般の方は何も疑わず信じてしまうと思うし、そこから、上述のクマ評論を何の悪意もなく展開することもあるだろう。
その後、同町では380㎏ほどとされる個体が捕獲されたが、箱罠をひっくり返した個体がその捕獲個体と同一であるとするのには、無理があるように感じられる。
※冬眠前の時期であるにせよ、380㎏というのが実測なら、それなりに大型のオスと言っていいとは思う。
そもそも。食物の乏しくなった冬前にシカなどの誘引力が強い誘因餌を箱罠に仕込んで仕掛けておくと、少なくとも周囲5~6㎞以内に冬眠を控え歩き回っているヒグマが次々に箱罠周辺に寄ってくるだろう。シカ死骸なら、一度冬眠したヒグマを再び外におびき出してそこに引き寄せるほどの効果が現れる場合もある。
それをご当地の猟友会は「まだまだ(クマが)いる」と認識し、箱罠を仕掛け続ける流れになっているが、この場所に寄せられた1頭が罠をひっくり返した個体、その後捕まったの大型オスは別個体ととるのが自然な見方と思う。前掌幅の見立てが「約14cmはあるかな」から17㎝に変わっていることも、これなら整合性がとれるだろう。
なお、誘因餌を仕込んだ箱罠が、わざわざ周囲の山のヒグマらをその場所に呼び込んでしまうという事実・メカニズムは、人里のクマ問題を考える上でとても重要なところとも思う。箱罠を撤去したら、それまでしつこく続いていたヒグマの目撃があっさり消えた、なんていうこともよくある例だ。
◆「箱罠をひっくり返すヒグマ」について。
ただなんとなく仕掛けた箱罠をひっくり返すヒグマは丸瀬布では20年前からときどきいて、ひっくり返されない方法も地元猟友会によってだいたい確立している。ただ単に土の地面にアンカーを打つ程度ではどうにもならないが、そういう知恵比べの経験を持たない猟友会への取材で「スマートベア出現か!」的なことを報道されても正直閉口するばかり。アーバンベアに続きまた流行語大賞でも狙いたいのかな?と疑いたくもなる。
ある程度の年齢まで生き延びているヒグマの知能は、実際にひっくり返すかどうかは別にして、老年で痴呆にでもかかった個体でなければだいたいにおいてそういうレベルにあるのがむしろ普通で、特に狡猾な個体は箱罠をひっくり返して中のシカ肉だけ持ち去ったりもする。
ヒグマの知能は感受性とともにとても高く、「イヌと霊長類(サルやヒト)の間」と覚えておくといろいろ理解しやすいと思う。この表現はもともと北米の研究者Larry Van Daeleによるものだが、私もまったく賛同する。
◆「ひっくり返した個体の見立て」について。
まず、トレイルカメラというのは、総じて広角レンズでつくられているので、手前に映ったものは実際の大きさより極端に大きく見える傾向がある。そのため、比較となる何かとカメラからの距離が同じという条件で大きさを比較しなければ簡単に錯誤を起こす。
苫前の例では、箱罠の「高さ1m・幅80cm」から考えて、このクマの体高(四つ足で立ったときのコブの高さ)は、不鮮明で正確にはわからないが1m前後だろう。体高1mのオス熊というと小さめの個体で、4~5歳の若グマにありがちなサイズ。
丸瀬布で確認できている体高の最大値は140㎝程度だが、今年体高を計測した個体でも130㎝ほどのオス個体があったので、そのあたりの体高を持つ大型のオス成獣はあちこちにちらほらと存在していると捉えるべきだろう。そのクラスの大型オスが順調に食い溜めをおこなった場合、体重は夏前の1.3~1.7倍程度に増え、400~450kgに達することは考えられるが、それは「大型オス成獣」という表現で言い、「巨大グマ」という表現は私自身はは用いていない。
ちなみに、夕張岳から日高方面では実測500㎏を越えるヒグマが希に捕獲されるそうだが、北海道のヒグマの最大級はそのあたりだと思う。さらにアラスカ方面のコディアック島に暮らすヒグマ(コディアックベア)は700㎏程度に達し、ときに1000㎏を越える個体がある。そんなヒグマが目の前に現れれば、私もつい「巨大」という言葉を使いたくなるかも知れない。
また、問題の個体に関して上述のように猟友会の現場の検分で前掌幅14㎝という情報もあるが、ヒグマの場合、前掌幅に関しては「14.5cm以上はオス」というだいたいの基準があって、14㎝というのはオスともメスとも判断がつかない小さめの足跡だ。ここからも、「箱罠をひっくり返した個体」が比較的小型オスか成獣に満たない若グマ(亜成獣)である可能性が高いことがわかる。
このように断片的に得られる体高や前掌幅の数値データから冷静に考えていくと、実際に箱罠をひっくり返した個体は、猟友会のベテランハンターが言う「見たこともない巨大ヒグマ」とはかけ離れていることがわかる。どういう理由でこのハンターが事実とは異なる見立てを大袈裟に各種メディアに流してしまったのかは私には解らない。
現在のメディアの状況を考えると、見る側が賢くならないといけないのかも知れず、私も含め細心の注意を要す。