08/06/2026
『匂いの世界:鼻で探すということ』
4)風を捉える
プルームの中をイヌが進むと、どこかで匂いの断片に出会います。しかし、すぐに、また匂いは感じられなくなります。
問題はその時にどうすればいいか、です。匂いフィラメントが伸びている方向を探ればいいでしょうか。しかし、残念ながら、フィラメントが伸びている方向はバラバラなので、匂い源に近づくために役に立つとは限りません。
考えられるのは、匂いに出会ったらとりあえず風上に向かう、という方法です。プルームは全体として風上から風下に広がっているので、匂い源は少なくとも風上の方にあるはずです。
嗅覚で探索を行う蛾のような昆虫が、実際にこの方法を採っていることが知られています。イヌにおいても、探索中に急に方向転換をして風上に向かう行動がしばしば見られます。これはイヌもまた同様の方法を採用していることを示唆しています。
風上に向かう。そう口で言うのは簡単ですが、実行するとなると簡単ではありません。「どうやって風向きを知るか」という問題があるからです。
私たち人間にとって、風向を感知するのは、よほど強い風でない限り難しいことです。指を舐めて立ててみたり、枯れ葉を投げてみたりして、ようやくおよその方向が判断できるだけです。
人と違い、イヌの鼻の表面には血管が集中しています。このことは、イヌの鼻の表面が何らかの感覚器になっていることを示唆しています。実際、気温が 20 度の時、気温と同じ温度の金属板と
35 度に温めた金属板を並べると、イヌは 2m 離れたところからどちらが暖かい板か区別できることが知られています。鼻を使って温度を感知しているのだと考えられています。
イヌの鼻には、嗅覚だけでなく、まだ私たちの知らない能力が隠れている可能性があるようです。
フィールドのイヌたちは、鼻先をあちこちに向けながら、匂いだけでなく風も敏感に読み取っているのかもしれません。
帝京科学大学アニマルサイエンス学科
藪田慎司
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